こんにちは。
ちょっと涼しくなってきましたね。夜には虫の音も聞こえてくるようになりました。
今日は俗にセットバック法と呼ばれている方法についてのお話です。
セットバック法は上顎や下顎の前歯部を後方に下げるための術式です。
前歯部の後方に、前歯部を下げるための隙間を作らなくてはなりませんので、通常は前から数えて4番目の歯(第一小臼歯)を抜歯します。4番の相当部の歯槽骨(歯が埋まっている骨)も切除します。
その後、犬歯から犬歯(321|123)を一塊として後方に移動させて両側の犬歯と5番目の歯(第二小臼歯)をワイヤーで結紮し、骨はチタンプレートで固定します。骨もワイヤーで固定しているところもありますが、ワイヤー固定ではしっかりと骨が固定されないので術後の骨の癒合に時間がかかります。
また両側の第一小臼歯を抜歯して両側の犬歯が第二小臼歯に接するようになるため、両側の犬歯と第二小臼歯の間に目立つ段差が生じます(下図B)。このような状態では笑ったり、お口を開けた時に不自然ですので両側の犬歯と第二小臼歯にセラミックを被せて段差をなくす処置をするか、術後矯正が必要になることがあります。
通常セットバックは4番目を抜歯します(上アゴ)
通常セットバックは4番目を抜歯します(下アゴ)
そこでマックスファクスでは5番目の歯(第二小臼歯)を抜歯して第一小臼歯から反対側第一小臼歯までを一塊として第一大臼歯まで下げるようにしています。手技的には骨きり距離が長くなりますので面倒になりますが、この方が自然な仕上がりになります。
当院のセットバックは段差をなくすため5番目を抜歯します(上アゴ)
当院のセットバックは段差をなくすため5番目を抜歯します(下アゴ)
何故ならば犬歯と第二小臼歯の段差よりも第一小臼歯と第一大臼歯の段差の方が少ないからです。
お口を開けたり、笑った時も通常は第一小臼歯までしか見えませんので手術の痕跡が分かりづらくなります。
いずれの方法を行っても後方への移動量によっては抜歯した部位に隙間が生じることはありますので、そのような時は術後矯正をするか、セラミックを被せて隙間を埋める必要があります。また元々、犬歯と第一小臼歯の間に犬歯空隙という隙間がある方は第一小臼歯を抜歯した方が良い場合もあります。
上顎をWassmund法で第一小臼歯から第一小臼歯をセットバック、下顎をKöle法で第一小臼歯から第一小臼歯をセットバックした症例です。
口腔内写真をご覧になってください。左下の奥歯に多少の段差は見られますが自然に仕上がっていることをご理解していただけると思います。
口元突出の改善(セットバック)について 詳しくはこちら
※本術式には以下のような合併症、偶発症が起きる可能性があります。
- 眼窩下神経、オトガイ神経支配領域の知覚鈍麻
- 口蓋粘膜の知覚鈍麻、違和感
- 一時的な鼻閉感(1~2週間程度)
- 一時的な開口障害
- 上顎の挙上量に応じて上顎前歯の歯の見え方が少なくなる。
- 鼻翼幅が若干広がることがある。
- ごく稀に歯髄壊死を起こすことがある。
- ごく稀に一時的に顔面神経麻痺を起こすことがある。
- 顔面神経側頭枝、頬枝の一時的な麻痺
- 眼窩下神経の知覚鈍麻
- 頬骨弓部の一時的な凹み
- 頬の脂肪が多い場合、頬のたるみが残ることがある。